Nuck管水腫(ヌック管水腫)の診断と治療
「Nuck管水腫(ヌック管水腫)」という疾患を聞かれたことはありますか?
実はこのNuck管水腫、鼠径ヘルニアに似た症状で、しばしば当院を受診される疾患です。今回は、このNuck管水腫について説明します。
Nuck管水腫とは
Nuck管水腫とは、女性に特有の病気で、男性では「精索水腫」に相当する病気となります。
精索水腫?と思われる方も多いかと思います。「精索」とは、精子の通り道である「精管」と、精巣への血管(精巣動脈と静脈)を合わせた概念であり、その精索の脇に水腫(水たまり)ができることを言います。
鼠径部の皮膚の下には、「鼠径管」というトンネルのような構造があり、男性の場合はこの中を「精索」が、女性の場合はこの中を「子宮円索」という子宮を支える組織が通っています。この鼠径管の中(または、これに連続する部位)に水たまりを形成するのが、「精索水腫」や「Nuck管水腫」となります。
男性の「精索水腫」も、鼠径部のふくらみを症状として来院される方がありますが、ほぼ全例でその内容は「液(体液)」であり、ふくらみや違和感以外の症状(痛み)はありません。一方で、女性のNuck管水腫は、内容が「液(体液)」でなく、「血液成分」が混ざっていることがあり、水腫に明らかな痛みを生じることがあります。
ふくらみだけでなく、痛みがあると、日常生活にも支障をきたすため、診断や治療を求め医療機関を受診されます。
Nuck管水腫の診断と治療
このNuck管水腫ですが、基本的には自然に治ることはありませんので、何らかの症状がある場合は、手術による切除・診断が原則となります。
診断に関して、身体所見・および触診のみでは、鼠径ヘルニアと区別がつかない場合がありますので、超音波検査やCT検査(MRI検査)などの画像検査が有用です。実際にNuck管水腫の内容物が、単純に「水(体液)」であるか「血液成分」が混ざっているかは切除してみなければわかりません。
Nuck管水腫の中に「子宮内膜症」という病気が存在している場合、水腫の内容物が「血液成分」となる事が多く、痛みの症状も出現します。子宮内膜症とは、子宮内膜が、本来あるべき子宮の内側以外の場所に発生することを言います。子宮内膜は、増殖や剥離(出血)、炎症を繰り返すことにより痛みの原因となります。鼠径部に子宮内膜症が存在する場合は、「希少部位子宮内膜症」という概念に含まれ、月経(生理)の周期に一致して、鼠径部の膨らみが大きくなったり、痛みが強くなったりします(月経時に必ずしも症状が増悪するわけではありません)。
治療に関しては、まず子宮内膜症が存在していることを診断する必要がありますので、原則通り、手術による切除を行います。手術により切除した水腫をしっかり評価し、子宮内膜の成分が検出されれば、診断は確定します(極めて頻度は低いですが、Nuck管水腫には悪性の癌が合併した報告もあります)。
この場合、鼠径部以外の場所(腹腔内など)にも子宮内膜症が存在する可能性がありますので、子宮内膜症の専門診療科である婦人科を受診して頂くことが望まれます。年齢や症状の程度にもよりますが、経膣超音波検査やMRI検査、腫瘍マーカーの検査を行うことで、他の部位に内膜症の合併がないか評価を行い、治療が必要と判断された場合は、病状に応じて薬物治療や外科治療が検討されます。
このように、Nuck管水腫は、単純に「水」の成分である場合と、子宮内膜症を合併することで「血液成分」が含まれる場合があり、特に子宮内膜症の合併が疑われる場合は、診断・治療目的の切除が必要です。鼠径ヘルニアのように、「嵌頓(かんとん)」して腸閉塞や腸壊死(えし)を起こすことはありませんが、Nuck管水腫が、潜在的に存在する体内の子宮内膜症を発見する一つのサインとなります。
Nuck管水腫の手術
Nuck管水腫の手術方法に関しては、鼠径部切開法と腹腔鏡手術による治療があります。
個人的には、鼠径部切開法による切除が最も患者様にとって負担の少ない術式だと考えます。Nuck管水腫の治療においては、鼠径ヘルニアの治療と異なり、人工的な膜(メッシュ)は不要な場合がほとんどです(鼠径ヘルニアを明らかに合併している場合はメッシュが必要)。
腹腔鏡手術の場合は、Nuck管水腫の完全切除のために、鼠径管の内容を引き出し、くり抜くような操作が必要であり、場合によっては鼠径管の構造自体(特に後壁)を破壊しなければ、水腫自体の完全切除が難しいことがあります。そのため、水腫の切除後に弱くなった鼠径管を補強するためのメッシュを使用します。
鼠径ヘルニア治療において、メッシュは極めて有効な手段ですが、頻度は低いもののメッシュ感染という非常に「やっかい」な合併症や、女性では妊娠した際に違和感の原因となり得るとされているため、使用しないで済むのであれば、それにこしたことはありません。
また、鼠径管内に限局したNuck管水腫の場合は、技術的に腹腔鏡手術で切除できることが多いですが、鼠径管の外(外鼠径輪から脱出したNuck管水腫)の場合は、腹腔鏡手術で切除することは極めて困難で、途中で鼠径部切開法に移行しなければならないこともあります。これらを十分に考慮した慎重な術式検討が必要と考えます。
まとめ|Nuck管水腫(ヌック管水腫)について
以上、今回はNuck管水腫について説明しました。
当院では、「鼠径ヘルニア」だけでなく「Nuck管水腫」に対しても、日帰り手術が可能です。
Nuck管水腫で子宮内膜症が疑われる場合は、切除後に必ず病理検査(切除した組織を顕微鏡で確認する検査)に提出し、子宮内膜症や悪性所見の有無を確認します。子宮内膜症の合併が診断された場合は、患者様の状態を考慮の上、必要に応じて適切な医療機関にご紹介させて頂きます。
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滋賀大津そけいヘルニア外科クリニック
院長 安川大貴