鼠径ヘルニア（脱腸）の膨らみを戻す方法について

今回は、鼠径ヘルニアの膨らみを戻す方法について説明します。
この「戻す」と言うのは「鼠径ヘルニアを完全に治す」という意味ではなく、「鼠径ヘルニアの症状である膨らみをおなかの中に戻す」という意味です。

鼠径ヘルニアを完全に戻す（治す）には、手術しか方法はありません。

一方で患者様から、手術までの間に鼠経ヘルニアの膨らみが出たときにどうやって戻したらよいですか？という質問もいただきます。今回は、このようなご質問にお答えする意味で、説明していきたいと思います。

鼠径ヘルニアとは

まず、鼠径ヘルニアとは「足の付け根（鼠径部）の筋肉や筋膜が弱くなることにより、腸や脂肪などの内臓脂肪が皮膚の下まで押し出されてくる病気」です。

成人鼠径ヘルニアの大きな原因は加齢であり、年を重ねるにつれて鼠径部の組織（筋肉や筋膜）自体が弱くなり、鼠径ヘルニアを発症します。

鼠径ヘルニアの戻し方

鼠径ヘルニアの膨らみを戻す一番の方法は、まず横になり、できる限り力を抜いた状態で、手で膨らみを包み込むようにしておなかの中に向かって押し戻すことです。

立っていると、それだけで腸や脂肪の重みで鼠径部に力がかかってしまいます。一方横になると、重みは背骨側に分散され、鼠径部にかかる力は減少します。
また、痛みなどの症状があるとどうしてもお腹に力が入ってしまい、おなかの圧が上がってしまいます。横になり、できる限りリラックスした状態で膨らみを押し戻すことが肝要です。

嵌頓でなくても戻らない場合がある

鼠径部の膨らみは柔らかくて痛みもない。だけど戻そうと思っても戻らない、または一瞬で膨らみが元に戻ってしまう場合があります。

このような場合、多くは長い期間、鼠径ヘルニアをお持ちの患者様で、腸が出たり入ったりを繰り返すことにより組織に慢性的な炎症が起こり、おなかの膜（腹膜）と腸がくっついてしまってる状態です。
この場合、戻そうとしても戻らないことが多いですので、ご自身で無理に戻さないようにしてください。

鼠径ヘルニア嵌頓時の戻し方（対応）について

鼠径ヘルニアの嵌頓では、腸が筋肉の外に飛び出した状態のまま、おなかの中に戻らなくなります（嵌頓の詳細については、こちらをご参照ください。https://shiga-sokei.net/kanton/）。

この「嵌頓」の初期症状として多いのは「鼠径部の硬い膨らみ」と「鼠径部の痛み」です。このような状態を数時間～半日ほど放置すると、腸閉塞や腸壊死（えし）を来すことがありますので、早急の処置が必要です。

嵌頓を発症してすぐであれば（発症後数時間まで、特におなか全体の症状がない場合）、まずはご自身で膨らみを戻す方法を試してみましょう。上述した通り、横になり、できる限り力を抜いた状態で、手で膨らみを包み込むようにしておなかの中に向かって押し戻します。

何度か試すことで戻ることがありますが、痛みが強くなったり、数回行っても戻らなかったりする状態であれば、無理はしないでください。万が一、腸に壊死が起こった状態で無理に戻すと、鼠径部にとどまっていた痛みが、一気におなか全体に広がる可能性があります。ご自身で戻すことができなければ、速やかに外科・消化器外科を標榜する医療施設を受診ください（救急車を呼んでもらっても結構です）。

医療施設では、患者様の状態や嵌頓後の経過時間、画像所見など総合的に判断して、外科医が体表から嵌頓を整復します。うまく戻れば良いですが、もし嵌頓が解除できなければ、緊急手術が必要になります。